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·岡瑞起、林祐輔、廣瀬百葉

Generative Polis — AIとつくる合意形成、Polisのその先へ

デジタル民主主義サミット2026にて、私たちの研究チームは、異なる立場を橋渡しする新しいステートメントの生成をAIが支援できるかを探る、進行中のプロジェクト「Generative Polis」を紹介しました。

2026年8月2日 | 岡瑞起、林祐輔、廣瀬百葉


セッションレポート

投票パターンから新しいステートメントへ

慶應義塾大学三田キャンパスで開催されたデジタル民主主義サミット2026にて、私たちの研究チームは、現在進行中のプロジェクトである Generative Polis を、「Generative Polis — AIとつくる合意形成、Polisのその先へ」と題したセッションで紹介しました。

セッションでは、次の具体的な研究上の問いを取り上げました。異なる信念をもつ個人の局所的な予測から、集団において共有可能かもしれないステートメントを、どのように構成できるでしょうか。

このプロジェクトの背景には Symbiotic Alignment の考え方があり、その概念的な基盤には Collective Predictive Coding(CPC) があります。CPCは、共有記号を、異なる局所的な観測をもつ複数の主体による分散的な推論を通じて形成されるものとして捉えます。Generative Polisではこの見方を出発点に、参加者ごとの予測を局所的なエビデンスとして用い、候補ステートメントを共有可能な表現として評価します。今回は枠組み全体を改めて説明するのではなく、評価を参加者自身に委ねながら、AIが異なる立場を横断する新しい表現の提案を支援できるか、という実践的な設計課題の一つに焦点を当てました。

Polisが可視化するもの

Polisは、重要な実証的出発点を提供します。参加者はステートメントに対してAgree、Disagree、Passのいずれかで反応し、その投票行列から、参加者とステートメントのあいだにあるパターンが明らかになります。Polisはこれらのパターンをもとに、意見グループに加え、グループの境界を越える合意点も特定できます。

この意味で、Polisは単なる投票ツールではありません。議論のなかにある集合的な意味の構造を捉えるための窓になります。一つひとつの投票は、ある参加者があるステートメントに示した局所的な反応を記録します。それらをまとめて見ることで、異なる立場が互いにどのような関係にあるかが浮かび上がります。

しかし、どのような熟議のプロセスも、すでに議論に登場したステートメントしか評価できません。異なるグループを橋渡しできる表現が、まだ言語化されていない可能性があります。参加者自身の判断に取って代わることなく、AIがそのようなステートメントの提案を支援できるか。これがGenerative Polisの中心的な問いです。

Generative Polis:生成を集団に接地する

Generative Polisは、Polisの投票データ、参加者ごとの反応モデル、LLMが提案する候補ステートメントという三つの要素を組み合わせます。

まず、既存の投票履歴を使い、それぞれの参加者が異なる種類のステートメントにどのように反応するかを推定します。次に、LLMが議論にまだ登場していない新しい候補ステートメントを生成します。そして候補ごとに、各参加者がどのように反応するかを予測します。これらの局所的な予測を組み合わせ、候補集合を評価し、重みづけし直します。

通常のLLMによる生成との違いは、主として文章の流暢さにあるのではありません。生成された文章を何にもとづいて評価するかにあります。LLMだけを使う場合、言語としてのもっともらしさや、学習を通じて獲得した選好にもとづいて文章が選ばれます。それに対してGenerative Polisは、集団に分散した反応構造を生成の制約として用います。

したがって、予測そのものが最終目的なのではありません。予測は、生成されたステートメントを、熟議を構成する人々に接地するための手段です。AIが合意を決めるのではなく、集団自身が評価できる新しい共有表現を提案します。

Common GroundからUncommon Groundへ

目指しているのは、平均的な支持が高いステートメントを見つけることだけではありません。広く同意できるステートメントであっても、抽象的すぎれば、対立の構造を変えることはできません。Generative Polisが最終的に関心を向けるのは、オードリー・タンが uncommon ground と呼ぶものです。これは、問題を捉え直すことによって、既存の分断を横断する、これまで認識されていなかった表現を指します。

台湾における同性婚をめぐる議論は、その違いを示す事例です。対立する双方が「家族」の重要性を強調していましたが、念頭に置いていた関係は異なっていました。一方は二人のパートナー関係を法的に保護することを求め、他方は家族間の既存の親族関係を維持することを重視していました。突破口は、二つの立場を平均することから生まれたのではありません。二人の関係を保護しながら、双方の家族間に姻族関係を自動的に生じさせないという、新しい法的な定式化から生まれました。

したがって、Uncommon Groundは、単に共有された抽象的な価値ではありません。それは、異なる価値が共存できるようにする具体的な捉え直しとして現れます。二つの立場の中間にある妥協案ではなく、対立そのものを組み替えるものです。

進行中のプロトタイプ

セッションでは、既存のPolis投票データを使い、新しく生成されたステートメントを参加者の過去の反応パターンとの関係から評価できるかを探る、初期段階のプロトタイプも紹介しました。この研究は現在も進行中であり、完成または検証済みの成果ではなく、初期的な試みとして発表したものです。

Vote–Generate–Voteのプロセスに向けて

次の段階では、参加者が投票し、システムが新しいステートメントを提案し、それに参加者が再び投票するというループを閉じることを目指します。この反復的な vote → generate → vote のプロセスを実践のなかで検証することで、生成されたステートメントが、変化し続ける議論においてどのような役割を果たしうるかを明らかにしていきます。

デジタル民主主義に必要なのは、全員を同じ意見にするAIではないのかもしれません。必要なのは、人々が異なるままでありながら、共に考え、行動するために必要な言葉を育てることを支援するAIかもしれません。Generative Polisは、その可能性を形にするための初期的な試みです。集合的な意思決定をAIが決めるのではなく、集団が自ら検討できる新しい表現を生成することを支援するAIを目指しています。

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